肌の表面からの水分補給には限界がある

常々私は、患者さんやスタッフの女性に、「洗顔後のスキンケアの化粧品は保湿にしか役立ちません。肌の奥まで栄養分を与えることは不可能です」といった話をしています。

ある日、そんな私の話を聞いた人から、「先生は、肌の表面から栄養分が奥には入らないといいますが、洗顔後に化粧水を塗ると、肌の奥まで浸透していくことを実感できます。その日によってその感覚が違うので、肌の浸透具合によって、今日は多めに塗ろうなどと思うのです。だから、栄養分も浸透しているのではないですか?」といわれました。

スキンケアで毎日化粧品を使っている人の感覚を否定するつもりはありません。

ただし、肌の構造上、化粧水の水分や油分などが入り込めるのは、肌のほんの表面の一部分にすぎません。

しかも、肌全体の細胞を活性化させるほど、浸透することはまず不可能といえます。

そもそも肌の構造は?

ここで、簡単に肌の構造についてお話をします。

まず、肌の土台としては、表面に凹凸のついたスポンジを想像してください。
寝具のマットレスも、平たいものよりも凹凸のついたものの方が、寝たときにクッションがいいですよね。

肌におけるスポンジの部分もクッションの役割を果たし、凹凸があることで皮膚は弾力やハりを保つことができます。

この肌の組織を専門用語では「真皮」といいます。このスポンジの上にハンカチをのせます。これは、専門用語では「表皮」といいます

正確には、基底層から有蕀層といいますが、みなさんは「表皮」と覚えてください。

さらに上に薄いガーゼをのせます。これは専門用語では「角質層」といいます。

このガーゼの部分は、アカ擦りなどでゴシゴシとこするとはがれ落ちます。

生物学的にはガーゼの部分は生きた細胞ではなく、爪や髪の毛と同じ種類であり、古くなったガーゼは捨てられる運命にあるのです。

さて、スポンジの上にハンカチ、その上にガーゼをのせた状態で上から化粧水をしみ込ませると、どうなると思いますか?

化粧水は、ガーゼからハンカチ、スポンジへと浸透していくはずです。ところが、実際の肌ではガーゼの部分にしかしみ込みません。

なぜならば、ガーゼの部分と、ハンカチやスポンジを構成している部分では、細胞の種類が異なるからです。

ハンカチやスポンジは、生きている細胞組織の密集体なのですが、ガーゼは生命力を失った細胞(脱核細胞) の集まり。

生きている細胞と死んでいる細胞ほどの違いがあるのです。

生きている細胞と死んでいる細胞

ハンカチの部分では、毎日、新しい細胞が生み出されています。

たとえば、ナイフで指を切ってしまった後に、時間の経過と共に傷口が塞がり、元のような肌の状態になります。傷跡ができるような肌の状態ではなく、傷口が完全に元に戻るような傷を考えてください。

このとき、肌の細胞は、傷によって失われた組織を補うために、細胞分裂によって新たな細胞を生み出し、組織を元の状態に戻しているのです。細胞分裂があるからこそ、肌の組織も修復されて元通りになるのです。

その一方で、分裂ができなくなる細胞もあります。

分裂ができない細胞は、ハンカチにとっては意味のない細胞として扱われ、上のガーゼの部分に押し上げられます。

下からどんどん分裂しなくなった細胞が送られ、ガーゼの部分はそれらの細胞が密集しています。

そして、顔を洗ったときにアカとして体の外に捨てられる仕組みです。

ハンカチの部分は、新たな細胞を生み出して活性化していますが、ガーゼの部分はアカとなる細胞の集合体ではがれ落ちるだけの運命にあります。

このようにハンカチとガーゼでは、細胞の構造が異なっているのです。

肌の表面から栄養は届くのか?

では、化粧水をつけたときにはどうなっているかといえば、このアカとなる細胞の隙間には多少の水分が入っていきます。

しかし、その下の生きた細胞組織は、水分を跳ね返しているのです。

ガーゼ部分には少々の水分を入れることは可能でも、ハンカチの部分の生きた細胞組織は、外部からの侵入をブロックしてしまう。

いわば防御反応です。

そのため、ガーゼに水をしみ込ますのは簡単でもハンカチにしみ込ませるのは難しい。

ハンカチが水をはじくようにコーティングされていると考えてください。

ガーゼ部分は、捨てられる運命にある細胞の集合体なのでコーティングが弱い。

そのために水分が隙間に侵入できるのです。

洗顔で力を入れて肌をこすると、ガーゼは所々が破れたような状態になります。

多くの方が「化粧水が肌にしみ込んでいる」と勘違いしやすいのは、破れたガーゼの部分に水分などが入り込むためです。

それだけのことにすぎないのです。

人間の細胞組織は実に巧妙にできています。

表皮にも大事な役割が!

アカとなる運命のガーゼの部分にもきちんと役割があります。

ガーゼの部分は、ハンカチから送り込まれた分裂しなくなった細胞の集合体といいましたが、カメの甲羅のように密集して、細胞間には油分と水分をためて、外部から細菌などが侵入してくるのを防ぐ、重要な役割を果たしています。

その強度を増した状態が「爪」です。

爪は皮膚の表面よりも硬くて頑丈ですが、肌の表面も、爪ほどではないにしろプロテクトするためにガーゼの部分があるのです。

ガーゼは、ハンカチやスポンジを守るために必要不可欠なものです。

しかし、こすってはがれ落ちるほど構造はもろい。
その隙間に、化粧水などの成分が入り込みやすいのです。

ただし、それらがハンカチやスポンジまで到達することはありえません。

仮に到達したとしても、生きた細胞の栄養分になることは難しいのです。

「化粧水がしみ込む」感覚は間違いとはいいません。

しかし「肌の細胞に栄養を与えて細胞を活性化する」のとは、イコールにはならないことを、改めて申し上げたいと思います